大判例

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奈良地方裁判所 平成6年(行ウ)11号・平6年(行ウ)12号 判決

甲・乙事件原告

乾喜雄(X)

右訴訟代理人弁護士

平井慶一

甲事件被告

奈良県収用委員会(Y1)

右代表者会長

小室直人

右指定代理人

本田晃

足立英幸

福島廣

榎友三

西仲光弘

市場三喜

井須是志

古市裕子

森川東

大北隆

乙事件被告

国(Y2)

右代表者法務大臣

宮澤弘

右指定代理人

本田晃

足立英幸

福島廣

榎友三

西仲光弘

伊加田修史

奥村穣

濱野洋

河田耕作

名和昌昭

塩見和康

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事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  証拠(各項の末尾に摘示したもの)によれば、次のような事実を認めることができる。

1  被告収用委員会における審理は、平成六年一月二一日、同年三月七日及び同年三月二九日の三回にわたって行われた。第一回の審理期日においては、主として起業地の権利関係についての意見聴取が行われたが、これとともに損失補償に関する意見陳述の機会も与えられた。原告は第一回の審理期日に先立ち、「昭和四十年私達は現在地で食堂を始めました。其後裏の山林を買ひ昭和五十三年店舗を新築し駐車場を広げ昭和五十四年営業を再会致しました。創業以来現在迄二十八年間延客数約百四十万人の御利用をいただきました。・・中略・・現在香芝市にはドライブインらしいドライブインはありません。バイパスの開通する今こそドライブイン経営のチャンスだと思ひます。しかしそのためには広い土地が必要です。願はくば金銭でなく広い代替地を私に与へて下さい」などと記載した意見書(〔証拠略〕)を提出し、右審理の責上においても、「私は初めから申しましたように、代替地をいただきたいと思っております」「いまのところ金額についてとやかく言う意思はございません」などと述べ、土地を指定しないで替地による補償を要求した。被告収用委員会は、右のような原告の意見を聴取するとともに、原告を含む関係人に対し、意見があれば次回期日までの間に文書を提出するよう求めて、第一回の審理期日を終了した。(〔証拠略〕)

2  被告国は、第二回審理期日前の平成六年二月一七日までに原告の右意見書に対する意見書(〔証拠略〕)を提出した。被告国の右意見書は、起業者が任意協議の過程で地元香芝市の協力を得て真摯に代替地を詮索し、その結果数箇所の代替地を提示したものの、いずれも原告の了解を得るには至らなかったこと、以上の経過から判断して、原告の意にかなう代替地を起業者において新たに提示することは極めて困難であり、原告自らが詮索し今後の食堂経営に適していると思われる代替地を決定し購入されることが最も妥当であると考えられること、したがって、起業者としては法七〇条に基づく金銭による補償が妥当であると思慮すること等をその内容とするものであった。

第二回の審理期日においては、被告収用委員会の求めに応じて、まず被告国が右意見書の内容を説明したが、その後原告にも反論の機会が与えられ、これに応じて原告は、不動産の価値とは別に営業の価値を評価して、これに見合った代替地を提供してほしいというのが基本的な希望であり、このような基本的な考え方に違いがあったため、任意協議の過程でも話合いは平行線に終わった旨述べた。そして、被告収用委員会が原告に対し、代替地として指定したい特定の土地がないのかを尋ねたところ、原告は、現時点ではないが指定せよということであれば検討したい旨を述べたため、被告収用委員会は、被告国に対しては任意協議の過程をもう少し詳しく書面で明らかにするよう求めるとともに、原告に対しても代替地の指定を検討するよう指示し、具体的な土地が見つかった場合には次回期日前に文書等で知らせるよう求めて、第二回の審理期日を終了した。(〔証拠略〕)

3  被告国は、被告収用委員会から要請のあった任意協議の経過に関する意見書(〔証拠略〕)を第三回審理期日前の平成六年三月一六日までに提出した。右意見書は、原告との交渉は昭和六〇年度末ころから開始しており、起業者は補償金額の算定のため支障となる建物等の調査依頼を続けていたが、原告は代替地の提示が先決であり、五〇〇〇坪のゴルフ練習場用地を希望する旨の主張を続け、起業者としてはかかる過大な要求に対応できるはずもなく、交渉は平行線のまま経過したこと、起業者は、具体的な代替地として、香芝市の協力等により、平成三年一一月八日、<1>広陵街萱野(近鉄箸尾駅北側)の土地約一二〇坪、<2>上牧町三軒屋(上牧町役場近く)の土地約三五〇坪、<3>香芝市逢坂七丁目の土地約四九〇坪、<4>香芝市穴虫の土地約四八〇坪を、平成五年一月一七日、<5>香芝市瓦口(近鉄五位堂駅前)の土地約一五〇坪を、同年三月三〇日には、<6>香芝市穴虫の土地約四二〇坪をそれぞれ提示したこと、原告は、<1>ないし<4>の土地については、今の場所よりも条件が悪く、希望はあくまでゴルフ練習場用地である旨を主張したため不調となり、その後、代替地の希望がゴルフ練習場用地から駅前での学生マンション用地あるいはバイパス沿いの食堂用地へと変わったが、<5>の土地については、マンション用地として面積が少ないということで不調となり、<6>の土地についても、以前火事等のあった土地で縁起が悪いとして不調となったこと、原告の主張は、土地買収代金と代替地価額の差は起業者が負担して当然であるというものであり、今の場所より条件の良くなることによる価値増分、あるいは面積が増えることによる価値増分を原告本人が負担する等の譲歩がなかったため、任意協議がまとまらなかったこと等をその内容とするものであった。

第三回審理期日において被告国は、右意見書に基づき原告との任意協議の経過を説明したが、これに対して原告も、事実経過がほぼ右のとおりであることを認めるとともに、被告国が提示した代替地がもう一件あると述べた。被告国は、原告が指摘するとおりもう一件提示したことがあるが、これも不調に終わったと述べ、右事実を伏せたのは右土地の所有者の希望によるものである旨を説明した。このようなやりとりがあった後、被告収用委員会は、あらためて原告に対し、代替地として指定したい特定の土地がないのかを尋ねたが、原告は、一か所の土地を検討しているがいまだ具体的な話にはなっておらず、その所有者も被告国ではない旨を述べた。そして原告は、あらためて、将来営業を続けたならば得られるであろう利益の分も損失補償として考慮してほしい旨の希望を述べた。

被告収用委員会は、これらの経過を経て、協議の上、審理を終了することとしたが、終了にあたっては、当事者双方に対し、特に補足したい点があれば平成六年四月一二日までに書面を提出するよう求めた。(〔証拠略〕)

4  その後、原告を含む関係人から被告収用委員会に対してはなんらの書面も提出されず、被告収用委員会は平成六年九月八日、本件各土地につき本件各裁決をした。そして、原告に対する損失補償としては、原告について従前の生活・生計を維持するために必要な代替地を適正な価格により取得することが困難であるとの特段の事情が存するとは認め難く、また、被告国が任意交渉時において七件もの物件を提示したが合意に至らなかった経緯からも、原告の要求に合致しうる代替地を被告国において提供できる可能性は認められないので、被告国に対し替地提供の勧告は行わず、金銭補償を相当とするとした上で、(一)土地に対する分として、(1)別紙図面表示のG区域について原告に所有権があると確定した場合は二億〇三四三万七八八九円(ただし、穴虫農事実行組合に水路敷使用権が存しないと確定したときは二億〇六三九万七二五九円)、(2)同区域について安川辰造に所有権があると確定した場合は二億〇一八三万四一五七円(ただし、穴虫農事実行組合に水路敷使用権が存しないと確定したときは二億〇四七九万三五二六円)、(二)土地に対する補償以外の分として六一二四万二五〇〇円(内訳は物件移転料四七四二万九一〇〇円、動産移転料六〇万八一〇〇円、移転雑費九五五万四一〇〇円、営業休止補償三六五万一二〇〇円)の金銭補償を認めた。

なお、被告収用委員会は同月一三日、本件各土地に対する損失の補償金を算定する際の投資材指数のうち平成六年六月分につき誤りがあったとして、原告に対する損失補償のうち土地に対する分を、(一)別紙図面表示のG区域について原告に所有権があると確定した場合は二億〇三四七万八二六一円(ただし、穴虫農事実行組合に水路敷使用権が存しないと確定したときは二億〇六四三万八二一八円)、(二)同区域について安川辰造に所有権があると確定した場合は二億〇一八七万四二一一円(ただし、穴虫農事実行組合に水路敷使用権が存しないと確定したときは二億〇四八三万四一六八円)と更正する旨の決定をした。(〔証拠略〕)

二  法八二条三項は、土地所有者又は関係人が土地を指定しないで、又は起業者の所有に属しない土地を指定して替地による損失補償の要求をした場合において、収用委員会は、その要求が相当であると認めるときは、起業者に対して替地の提供を勧告することができる旨を規定しているが、右規定の文言(「その要求が相当であると認めるときは」としていること)や、法が損失補償の方法として金銭補償を原則としていること(七〇条)等に照らすと、収用委員会の行う右勧告は、補償金の全部又は一部に代えて起業者に替地を提供させることが、公共の利益の増進と私有財産との調整を図るという法の目的の実現のために必要であるかどうかを、収用委員会において個別具体的な事案に即して合目的的に判断して行われるべきものであって、どのような場合に右勧告を行うかは、収用委員会の裁量に委ねられているものと解するのが相当である。したがって、収用委員会が右勧告を行わなかったことにつき、裁量権の逸脱又は濫用があったと認められる場合は格別、そうでない限りは、右勧告を行わなかったことから違法の問題を生じることはないものというべきである。

原告は、被告収用委員会としては、替地についての具体的な要求内容を聴取し、被告国に対して替地の提供を勧告すべきであったにもかかわらず、被告国から提出された報告書の記載をそのまま採用し、右報告書の記載内容や替地に関する原告の言い分を十分に聴取しなかった点に違法があると主張する。

しかしながら、右一に認定したところによれば、被告収用委員会の審理においては、原告に対しても反論の機会が与えられ、これに応じて原告自身も意見を述べていることが明らかであるから、それが結果的に採用されなかったからといって、原告の言い分を十分に聴取しなかったとか、その審理が公平を欠いたということにはならず、また、被告収用委員会が替地提供の勧告を行わなかったことにつき、裁量権の逸脱又は濫用があったと認めるべき事実関係も見出すことはできない。

そうすると、本件各裁決の取消しを求める甲事件に係る請求は理由がないものといわざるをえず、また、被告国に対して所有権移転登記手続を求める乙事件に係る請求についても、被告国の所有に属さず登記名義も有しない別紙物件目録(二)記載の各土地について、原告が右のような給付請求権を有し、あるいは裁判所が判決により右のような給付請求権を形成しうると解すべき実定法上の根拠はないというべきであるから、これも理由がない。

三  以上の次第で、原告の本訴各請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 井上哲男 石原稚也)

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